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雫
ビルの取り壊しに伴うリフォームジュエリー会社の廃業を起点に時間をさかのぼりながら、物から物へ、人から人へと、30年の月日のなかで巡る想いと“つながり”、そして新たなはじまりを描く、寺地はるな(2023年本屋大賞9位)の真骨頂が光る、感動長篇。
出会い、卒業、就職、結婚、親子、別れ……。中学の卒業制作づくりで出会った4人がそれぞれ直面する数々の選択と、その先にある転機、人生のままならなさ。不器用に、でもひたむきに向き合う彼らの姿を通して、日常のささいな不安や違和感を丁寧にすくい取って人の弱さにそっと寄り添いながら、いまを生きるあなたにエールを贈る大人の青春小説。
《あらすじ》
1996年冬、中学卒業を控え、卒業制作のレリーフづくりで同じ班になった永瀬珠、高峰能見、森侑、木下しずくはそのモチーフを考えていた。進路に迷う美術部員の永瀬、男女問わず学校中の人気者の高峰、誰に対しても優しくおっとりした森、物静かで周囲と距離を置く転校生のしずく。タイプの異なる4人がモチーフに選んだのは雫型(ティアドロップ)だった。
「古代、雨は神々が流す涙であると考えられていました。雨の雫はあつまって川となり、海へと流れ込み、やがて空にのぼっていく。その繰り返しが『永遠』を意味する、という説があります」
「永遠って、なんですか? 先生。そんなもの、あるんですか?」
美術教師が教えた「永遠」の意味。以来、永瀬や高峰の心に「永遠」が静かに宿り、やがて4人は別々の道を歩み始めた――。
*
時は流れて2025年春、リフォームジュエリー会社『ジュエリータカミネ』は、入居するビルの取り壊しにあわせて営業を終了した。ビルからの退去当日、デザイナーとして勤めた永瀬は将来への不安を抱えつつも次の仕事を決められずにいた。かたや、信念を持って店を立ち上げた高峰は、妻との離婚や自身の体調を崩して以来すっかり覇気がない。森は誰もが知る企業に勤めたものの上司のパワハラによって心に傷を負った。地金職人として独立したのち離島へ渡ったしずくは、いまも自分の感情を表すのが苦手なままだ。
30年の道のりの過程にある仕事、結婚、親子関係……。人との関わりでつまずきながらも、一方で人とのつながりによって救われてきた不器用な4人は、ままならない人生にもどのようにして前を向こうとするのか。「永遠」は不変で繰り返されるからこそ続くものなのか、それとも――。物から物へ受け継がれるジュエリー、人から人へと受け継がれる想いを通して、つながりの尊さとささやかで慈しみ深い日常を描く珠玉のヒューマンドラマ。