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ラジオと戦争
1925 年に登場し、瞬く間に時代の寵児となったラジオ。そのラジオ放送に携わった人々は、ラジオの成長と軌を一にするかのように拡大した「戦争」をどう捉え、どう報じたのか、あるいは報じなかったのか。また、どう自らを鼓舞し、あるいは納得させてきたのか。そして敗戦後はどう変わり、あるいは変わらなかったのか――。
上記をテーマに、NHK放送文化研究所の月刊誌「放送研究と調査」は、2017 年8 月号~21 年12 月号で、5 年にわたり「戦争とラジオ」を掲載した。その連載を単行本化したものが本書である。筆者の大森淳郎はNHKのドキュメンタリー番組のディレクターとして、戦争中のラジオについても長年取材を続けたのち、2016年~22年12月まで同研究所の特任研究員を務めた。
本書では、記者・ディレクター・アナウンサー…といった「放送人」たちが遺した証言と記録、NHKにある稀少な音源・資料などを渉猟し、丁寧にたどり、検証しながら、自省と内省の視点を欠くことなく多面的に「戦争とラジオ」の関係を追う。
ひいては、非常時において、メディアに携わる者がどのように思考・模索し、振る舞うべきなのかをも照射したノンフィクション。
【「序」より】
……夜空に浮かぶ月の表面は鏡のように平らに見えるが、実際は数千メートルの山々がそびえるクレーターだらけのでこぼこの世界だ。戦前・戦中の日本放送協会の歴史を遠望すれば、軍や政府に支配された、非自立的で没個性の、のっぺらぼうのような組織の姿しか見えない。でも、もっと接近して見れば、放送現場の絶望や葛藤、あるいは諦念といった感情の起伏が見えてくるのではないだろうか。そして政府や軍の指導を、放送現場がいつのまにか内面化し、ニュースや番組に具現化していったプロセスが浮かび上がってくるのではないだろうか。
現在の価値観から戦時ラジオ放送を断罪しようというのではない。いわば「仕方がなかった史観」を乗り越えて戦時ラジオ放送を検証すること。戦時中のラジオが何を放送していたのか、単にその事実を羅列するのではなく、現場が何をどう考えて、あるいは考えることを放棄して放送していたのかを検証すること。それこそが重要なのではないだろうか。
戦争協力は仕方がなかった。そこに止まっている限りは、戦時ラジオ放送の経験から学び、現在の放送に生かすことはできないだろう。(後略)