本書は、『英文法、ネイティブが教えるとこうなります』、『戦争で読み解く日本近現代史』に続くＮＨＫ出版新書内シリーズ「やり直し教養シリーズ」の第３弾です。
　人生に「Ｉｆ（イフ）」はありませんが、「高校時代にもし数学で挫折していなかったら、俺の人生はどうなっていたのだろうか」と夢想する「文系人間」は少なくないと思います。医師、建築家、パイロット、そして宇宙飛行士……夢と消えた様々な人生の可能性。
　それにしても、中学校まではそこそこ数学を得意としていたにも関わらず、高校で急に苦手意識をもってしまい「文転」してしまう生徒は、現在も後を絶たないと聞きます。教科書のカリキュラムの問題なのか、数学教師の教え方の問題なのか、それとも日本人の多くはそもそも「論理的思考」に向いていないのか。
　本書の監修者である秋山仁先生（本書の中では「仁仁仙人」というキャラクターで登場）と著者である門間明先生（同じく「鬼熊先生」というキャラクターで登場）によれば、高校の数学は中学に比べ格段に「抽象度」が上がってしまうのに比して、「この単元はいったい何のために必要なのか、何に役立っているのか」という具体的なイメージをうまく伝えることが出来ていないため、ということになります。
　本書は、ある下町の居酒屋で、天上の数学界からやってきた仁仁仙人が、そこのママさんに高校数学を教えるという設定になっています。そうしたお気軽な雰囲気の中で、数学記号や数式などをなるべく使わずに、「確率」「三角比」「統計」「微分・積分」の四つの単元について、時に紙で図形を切ったり貼ったり、時にゲームやマジックに挑戦したりしながら、より具体的なイメージとともに理解できるような構成になっています。
　「高校数学」に再挑戦（リベンジ）したいと考えている社会人から、今まさに「文転」しようとしている受験生まで手にとっていただきたい一冊です。
（NHK出版　高井健太郎）