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瓦礫の中から言葉を

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NHK出版新書 363

瓦礫の中から言葉を わたしの<死者>へ

[著] 辺見庸

発売日 2012年01月11日

新書

在庫あり

定価 814円(本体740円)

送料 110円

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商品紹介

3.11の奈落とは何か 根源の洞察〈私記〉

3・11後、ますますあらわになる言語の単純化・縮小・下からの統制。「日本はどのように再生すべきか」・・・発せられた瞬間に腐り死んでいくこれらの言葉に抗して、<死者>ひとりびとりの沈黙にとどけるべき言葉とはなにか。表現の根拠となる故郷を根こそぎにされた作家が、それでもなお、人間の極限を描ききった原民喜、石原吉郎、堀田善衛らの言葉を手がかりに、自らの文学の根源を賭け問う渾身の書。

 我々がなんとなく感じているけれど表現できずにいること。無意識のうちのもやもやに明確なかたちをあたえて世に問うことが文学者の役割だとするならば、本書はまぎれもなく文学者の仕事です。
 本書のテーマは「言葉」です。東日本大震災以降、「勇ましく」「美しい」言葉が単純に繰り返され、「未曾有」「絆」「再生」……そんな言葉を適当に組み合わせれば何かを言った気になってしまう思考停止状態の薄気味悪さ。それは誰かに命じられたわけではない。我々ひとりひとりの心のなかに「戒厳令」がひかれ、おのずとそうなってしまうことが何よりも恐ろしいことなのです。そして、それは東日本大震災によってもたらされたことではなく、ずっと以前からそうなのであり、ただ震災が、日本という国の「言葉の危うさ」をあらわにしただけなのではないかと著者は問います。
 しかし、ただそう問うだけなら「傍観者」でもできることです。では、どうすれば言葉を回復することができるのか、いまという奈落の底から言葉を掬い上げることができるのか……そこまでいかなければ、この事態に対して「責任ある主体」として何かを言ったことにならないのではないかと、著者は自らを問い詰めます。
 著者は、地震と津波によって根こそぎにされた宮城県石巻市の生まれです。自らの感覚を形作り表現の土台となってきたふるさと、多くの知人、友人、親類を失い、一時何も書くことができずに失言症のような状態におちいったといいます。それでもなお、言葉にせずにはおれないことをかたちとしたものが、先に刊行された新詩集『眼の海』(毎日新聞社)であり、その制作<私記>であり表裏一体となる本書『瓦礫の中から言葉を』だといえます。そもそもの本書執筆のきっかけは、震災直後の3月下旬に収録された同名のNHK番組での発言です。それから長らく執筆作業は中断されました。そこから著者自身が言葉を回復していく過程そのものが本書であり、そのとつおいつした語りには「当事者」でしかありえないものの切実さと迫力が漲っています。
 本書のなかで、私自身とても印象的だと思うくだりがあります。
 丁度、失言症におちいり、インタビュー取材にきた新聞記者たちの紋切り型のデキレースのような問いにもうんざりしていた頃、著者はある体験をします。同じようにインタビュー取材にきた若い無口な雑誌記者が、震災後とくに胸に響いていた堀田善衛の作品の愛読者であることがわかったのです。そのことに何となく救われた著者はこうつぶやきます。
 「言葉が通じるっていいな」――
 すべての問題は「言葉」にあり、また、希望も「言葉」にしかないという著者の確信が静かに伝わってきて心に沁みます。  
 (NHK出版 高井健太郎)

目次

第一章 入江は孕んでいた―記憶と予兆
第二章 すべてのことは起こりうる―破壊と畏怖
第三章 心の戒厳令―言葉と暴力
第四章 内面の被爆―記号と実体
第五章 人類滅亡後の眺め―自由と退行
第六章 わたしの死者―主体と内省

商品情報

発売日
2012年01月11日
価格
定価:814円(本体740円)
判型
新書判
ページ数
200ページ
商品コード
0088363
Cコード
C0295(日本文学評論 随筆 その他)
ISBN
978-4-14-088363-1