古典和歌の時代から近現代に至るまで、これまで膨大な数の短歌がつくられてきました。本書は、その中から卒業や結婚、出産、退職、介護、伴侶との別れなど、人生の節目となる出来事を詠んだ名歌を選りすぐって紹介した一冊です。
　著者が「おわりに」で記しているように、優れた文学を読む醍醐味は、本の前に居ながらにして「もうひとつの人生」に思いを馳せることができることです。それは短歌も同じ、いや、むしろ31文字という厳しい制約があるからこそ、名歌には先人たちのさまざまな困難や悲しみ、後悔、あるいは喜びや笑い、幸福などがギュッと濃縮されて詰まっていると言えるかもしれません。
　本書には、これまでの著者のアンソロジーとは異なり、自身の短歌や経験・体験のエピソードがふんだんに盛り込まれています。当代随一の歌人が心を込めて選んだ珠玉の名歌の数々とともに、ぜひお楽しみいただければと思います。
（ＮＨＫ出版　山北健司）