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証言 治安維持法
大正末期の1925年に制定された治安維持法。当初は「国体の変革」や「私有財産制度の否認」を目的とする結社―主に共産党を取締り対象としていたが、終戦の年に廃止されるまで運用対象は一般の市民にまで拡大された。
ふつうに暮らすふつうの人々が次々に検挙されたのはなぜか。当事者や遺族の生々しい証言と、公文書に記載された検挙者数のデータから、治安維持法が運用された20年間を検証する。
NHK ETV特集「自由はこうして奪われた~治安維持法 10万人の記録~」の書籍化。
まず序章で、現在も声を上げ続けている検挙者の証言を入り口に、治安維持法がどのような目的で作られたのか、成立の経緯を概観する。途中、歴史的な記述が続く部分は、同法の成り立ちを理解するために必要と考え、やや詳しく書いたが、証言を中心に読んでいきたい読者は第一章から読み進め、必要に応じて序章に戻っていただいてもいいだろう。
第一章から第五章では、法律が運用された二十年間の検挙者数のデータを分析して特徴的な変化を示す時期や地域を各章ごとに絞り込み、当時の出来事を、該当する証言者のエピソードを通して描いていく。同時に、証言者たちがなぜ検挙されたのか、時代的な背景や法律の運用状況を専門家の見解を交えながら検証する。
第六章では、治安維持法をはじめとする戦前・戦中の治安体制と戦後の治安体制の連続性について検証し、終章では本書に登場した証言者たちの戦後の歩みを見ていく。
書籍化にあたり、番組内で紹介することができなかった当事者の証言やエピソードをできるだけ織り込むよう心がけた。
戦後七十四年が経過したいま、当時を知る方々から話を聞くことはますます難しくなっている。しかし時代が遠ざかれば遠ざかるほど、実際に出来事を体験した人の生身の感覚こそが重要性を増していくのではないだろうか。さらに強調しておきたいのは、今回取材に応じてくれた証言者の誰もが、治安維持法は遠い昔の無関係な法律ではなく、その時代を知らない私たちにも重要な示唆を与えるものと考えていたことだ。
本書がかつて存在した治安維持法と、この法律によって人生を変えられた多くの人の声の一端を伝え、これからの社会を考えるための一助となることを願っている。