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語られざる占領下日本
日本が米国による占領から独立を回復して70年が経った。現在の政権は久々の“保守本流”宏池会出身者が担う。
かつて宏池会のトップを務めた宮澤喜一は、敗戦直後に占領軍側と直接交渉する立場にあり、そのことを回想したあるインタビューで「占領というのは非常に屈辱だ」と述懐した。最高権力をGHQが持っていたこの時代には、記録に残らなかった数々のエピソードが埋もれている。
最高権力行使の象徴的な例が「公職追放」だった。そこでは有名無名を問わず、政治や行政にかかわる人々が理不尽ともいえる目に遭っている。現代の私たちは、戦後民主主義の恩恵を受けた者として、GHQの権力を“すでに消えてなくなったもの”として忘れ去っても問題はないのだろうか。公職追放の体験を「黙して語らなかった」人々の運命に、関心など持たなくてよいのだろうか?
本書は、著者が収集した史料や占領期についての証言をもとに、広島カープ創設者・谷川昇、”クリーン”イメージの首相・三木武夫、フリーメイソンの天皇入会工作にかかわった関係者、田中角栄伝説を生み出した作家・戸川猪佐武について、掘り起こした事実に新たな角度から光を当てる。GHQの内部対立や、それを利用したり、また翻弄されたりした日本人の姿を通じて、この時代についての証言が少ないことの意味を考えさせるのである。
著者は自民党について、草創期や誕生以前の事情に詳しい。また、長らく鳩山一郎に関心を抱き、今回の本は「なぜ日本の首相がフリーメイソンだったのか」という疑問に対する答えとなった。また、「占領期におけるもっとも重要な事件」(佐藤栄作・談)とされる「山崎首班事件」を改めて検討することで、すでに”神話”化した田中角栄をめぐる伝説の重要な部分が形成されていくプロセスの詳細や、異端と見られていた三木武夫が敗戦直後から首相候補と目されるようになっていた事情を明らかにしている。
現代日本の出発点となった時代に、記録に残されず、後代の証言も乏しかったのはどのような事実なのか――。それを次々に明らかにしていく、実力派による刺激的な現代史である。