片岡義男さんのことについては、劇演出家・評論家の津野海太郎さんが、なにごとにもグルグルと遠まわしな植草甚一さんと対照的に、ものごとの本質をズバッと掴んでしまう「本質主義者」である、というようなことをなにかの本で書かれていました。私も片岡さんはまさしく「本質主義者」だと思います。レコード、本、写真、文房具、食べ物……etc。有無を言わさずその良し悪しをジャッジし、その本質を一言で言い表してしまう様子に、いつも凄味を感じます。
本書はそんな片岡さんが、「日本語と英語」の違いについても、その本質をズバッと掴み、書き下ろされたものであります。ズバッと掴み、と簡単に言ってしまいましたが、「英語の人」である父上と「日本語の人」である母上の子として生まれ以来、片岡さんにとって日本語と英語がいかに違うかということは、永遠のテーマでもあります。片岡さんは長年、日常でふと目にした「英語らしい」「日本語らしい」フレーズをインデックス・カードに書きとめ、そこに仮の対訳をそえる作業をされてきました。本書では、そのなかから特に日本語と英語の違いが鮮明に分かる用例が取り上げられています。
例えば、「お客様各位(Dear Valued Customer)」、「午後になってにわか雨も(chance of showers into the afternoon)」、「Is that supposed to mean something to me?(どうしろと言うの?)」「All right,you win(わかった、わかった、そうしよう)」……等々。
日本語は英語の、英語は日本語の鏡となって「日本語らしさ」「英語らしさ」の本質が浮かび上がっていきます。ただ、片岡さんは、その違いを際立たせ、どちらがどうだということを本書で言おうとしているのではありません。「そのあまりの違いを笑いながら楽しむ」という境地にまで至っているのです。本書を読んでいただき、著者である片岡さんといっしょに日本語と英語の違いを楽しんでいただければ幸いです。
(NHK出版 高井健太郎)
目次
一枚のインデックス・カードに値する
[1]動詞はどこへ行くのか
[2] I の真実、youの真実
[3]英語らしさ、日本語らしさ
英語で知ろうとした日本人