2012年8月の李明博（イ・ミョンバク）前大統領の竹島上陸、天皇謝罪要求で、日韓関係は一気に緊張の度合いを高めた。李大統領の行動が日本国内で非難されたのは、「就任当初は親日的だったのになぜ豹変したのか」という驚きもあいまってのことだろう。
　長崎で盗まれ韓国で発見された仏像について、韓国の裁判所が日本への返還を差し止めると、メディアは「やはり常識の通じない国だ」と嘆息する市民の声を伝えた。
　2月25日に朴槿恵（パク・クネ）氏が新大統領に就任すると、「親日家」といわれた朴正熙（パク・チョンヒ）大統領の娘でもあるし、膠着した慰安婦問題、竹島問題に進展があるかもしれないと期待する向きもあった。しかし、３月１日の独立運動記念日に朴大統領が「加害者と被害者という歴史的立場は千年の歴史が流れても変わらない」と演説するや、「いったい日本はいつまで謝り続けなければならないのか」とまたもや驚きあきれる声が沸きあがった。
　一連のできごとに対するこうした日本人の反応は、ひとことで表すと、「韓国は何を考えているかわからない、何をしでかすかわからない」というものではないだろうか。
　これが、交流の機会も殆どなく、社会の体制もまったく異なる国であれば無理もないかもしれない。しかし、政府の言葉を借りれば、韓国は日本と「自由と民主主義、市場経済などの基本的価値を共有する」隣国である。どうして私たちは韓国のことがよくわからないのだろうか。わかろうと思ってこなかったのか、たんにきっかけがなかったのか。
　ひとつ確かなのは、「わからない」と言うだけでは、なにも前に進まないということである。

　今回、山口県立大学の浅羽祐樹さんに本書をお書きいただきたいと思ったきっかけは、同氏の論文「韓国における政党システムの変容」(2009／現代韓国朝鮮学会賞受賞)を読んだことである。
　それまで歴史問題か、ビジネス競争か、観光・エンタメの文脈でしか語られてこなかった韓国が、日本の政党政治との比較をつうじて語られるのがまず新鮮だった。知らない政治家や政党の名前が並んでいるのに、「国が違っても、やっぱり政治って人間くさいゲームやなあ」という感慨が先に立ってふしぎと飽きなかった。端的にいって、韓国に意外な身近さを感じたのである。
　システムやデータの比較をもってフラットに韓国の政治や社会を観察するアプローチは、理解の助けになるだけでなく、感情的になりがちな日韓関係を相対化し論議をクールにシフトチェンジする可能性を持っていると思った。

　この紹介文の前半に羅列した韓国側の振舞いや発言は、そこだけピックアップすればたしかに理不尽だ。わからない。しかし、理不尽なだけの国が、国際社会において、政治的にも経済的にもここまでプレゼンスを高められるだろうか。仮に理不尽だとしても、その理不尽具合は第三者の目にも同じように映っているだろうか。日本の言い分をきちんと理解してもらえるように理論武装するには、当然、「相手のことはわからない」ではすまない。
　自分たちの理屈や感情をぶつけ合うやり方にはもう限界がきている以上、断片的、表面的に伝えられる振舞いや発言に煽られるのではなく、全体の根本にある構造やそこにいたる経緯もみて、これからどう対峙するのか準備するしかない。
　そのために著者は、わかりやすく情緒に訴えるストーリーより、わかりづらい振舞いが生まれる原理や仕組み、つまりフレームを重視する。緻密かつクールな分析にいそしむ浅羽さんのメガネを借りれば、わかりにくい韓国がぐっとわかりやすくなるだけでなく、今後、日本のとるべき戦略もみえてくるはずだ。
（ＮＨＫ出版　福田直子）