本書の著者は戸田山和久さん。19万部を超えるロングセラー『
論文の教室』、入門書の定番中の定番『
科学哲学の冒険』などの著書がある、科学哲学専攻の名古屋大学大学院教授、「日本科学哲学会」の会長さんも務められています。2014年には『哲学入門』というスゴいタイトルの本を上梓されました。
そんな戸田山さんは、夜な夜なDVD鑑賞にいそしむホラー好き。ここで紹介する新著『恐怖の哲学』は、映画から小説、マンガまで、著者偏愛のホラー
*を素材に、いっちょ「恐怖」とは何かをテツガクしてみようという大胆不敵・前代未聞の試みなのです。
著者とホラーとの出会いは高校生時代にまでさかのぼります。飯田橋の二番館で、70年代ホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』を観た戸田山少年は、チェーンソー片手に被害者を追い詰める殺人鬼「レザーフェイス」の異様な姿に怯え、吐き気を催すほどの恐怖を覚えたとのこと。ここで少年の心に疑問が生じます。「
なんで作りごとだと分かっているのに、嘔吐するほど怖かったのだろう?」、しかし「
そんなに怖かったのに、なぜ映画を楽しめたのだろう?」、そして「
人はなぜ、かくも多彩なものを怖がるようになったのだろう?」。
本書ではそんな積年の疑問から、「
そもそも人はなぜ恐れるのか?」「
恐怖の「感じ」って何だろう?」といった根源的な問いまでを徹底的に考察、人間存在のフクザツさに迫っていきます。おなじみのホラー映画
*を鮮やかに分析し、科学哲学専攻の著者らしく生物学や脳科学まで多様な知を縦横無尽に駆使、キョーフの正体に迫ります。
しかし、本書はお気楽な「ホラー論」ではありません。「恐怖の「感じ」」について論じたパートでは、「意識の表象理論」という最新理論をふまえて、「感じ=意識」とは何かという大いなる問いに果敢に挑みます。真摯な知的格闘の記録でもあるのです。
そんな著者の情熱あふれる文章を引用しちゃいましょう。
「哲学は生物学や脳科学とシームレスにつながるべきだ。魂があるから、言語があるから、人間は特別なんだとハナから決めてかかるヘッポコ哲学者には、彼らの思惑に反して、人間のユニークさは決して理解できないだろう。そういう哲学者の首をチェーンソーではねてまわりたい、と思う今日この頃」(「あとがき」より)
はい。というわけで、本書のオビには白目をむいてチェーンソーをふりかざすレザーフェイス戸田山のイラストを載せました。
著者の情熱のおもむくままに執筆していただいたら、なんと448ページに達しちゃいました。内容のみならず、厚さもまた前代未聞。
めくるめく読書体験、眠れぬ夜を保証するぜ!
(NHK出版 大場 旦)
*「著者偏愛のホラー」とか「おなじみのホラー映画」とか、何のことか気になるでしょ。ここで本書巻末「おすすめホラームービー10選」をタイトルだけ公開しちゃいましょう。推薦理由(コメント)は本書で読んでね。
(1)『悪魔のいけにえ』(2)『スクリーム』(3)『ゾンビ』(4)『ミスト』(5)『死霊のはらわたII』(6)『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(7)『SF/ボディ・スナッチャー』(8)『シャイニング』(9)『ザ・フライ』(10)『ウィッカーマン』