
今回の映画版は、住本健司率いる外事四課が、核テロという大惨事を防ぐために奔走するストーリーです。『外事警察』で特徴的な捜査方法の一つは、捜査官が民間人の弱みを握ってスパイとして協力させること。ですから、この作品には緊迫したアクションシーンもありますが、心理的なやりとりを描いたシーンが多く、むしろ深い人間ドラマと言えるかもしれません。
僕が演じている住本は、任務遂行のためには手段を選ばない冷徹な男として描かれています。彼のように、セリフで語らない部分で人間性を表現しなければならない役柄の場合は、台本の裏側を読み取って、自分なりにキャラクターを組み立てておく必要があります。僕自身は、住本が冷徹だとは思っていません。彼にも人間的な部分があるし、何より、根底にある「犯罪を防ぎたい」という正義感が強い。ですから、画面上は極力スキがないように見せながらも、彼の弱さや善の部分も意識して演じました。
映画版も、2009年に放送されたドラマ版とほぼ同じスタッフだったので、安心して撮影にのぞめました。監督は、ドラマ版でも演出を担当された堀切園健太郎さんです。彼にとっては映画初監督作品になりますが、映画だからといって何かを変えることはなく、ドラマのときと同じように撮影が進みました。堀切園監督の特徴の一つは、ワンシーンをカット割りせずに長回しで撮ること。一度通してやることで、役者もスタッフも流れや構成がつかめ、それぞれが本番に向けて調整できるので、良かったと思います。
共演者もドラマ版と同じ顔ぶれが多く、やりやすかったですね。特に、この作品は警察組織内の男同士のやり合いも見どころの一つなんですが、住本の上司役を演じられた石橋凌さん、遠藤憲一さんとの共演はとても楽しかった。彼らが作ってくれた流れに僕が乗っかることで、僕の中に新しいものが生まれたりするんです。お二人には、役者としてもっともっと教わりたい部分があると改めて感じました。
ドラマ版で初めて住本を演じたときは、正直、憂鬱になることがありました。大きな事件を防ぐためとはいえ、一般の人を危険な場所に送り込んだりする彼のやり方は、あまり気分の良いものではありませんからね。
でも僕は、役者は、役を引きずって憂鬱になったり、精神的に不安定になることがあってもいいと思っています。それが役者の仕事ですから、辛くて当たり前なんです。ただ、今回は核テロの大惨事を防ぐという目的に向かって話が進んでいったので、ドラマ版のときほどは憂鬱にならなかったですね。住本を演じることに慣れてきたのかもしれません。
実際の僕と住本はまったく似ていません。でも、自分と似ていないほうが気持ちを理解できることもあるので、役を組み立てやすいとも言えます。そういう意味では、役者はどんな役にも似ていないのが理想です。「あ、これ僕と似ている」という感覚を持ってしまうと、どうしても演技の邪魔をしてしまいますから。自分とは違う人間を一生懸命理解して演じる。それが面白いんですよ。
映画では、住本がハングルを話すシーンがけっこうあるのですが、僕はこれまでハングルを学んだ経験はまったくありませんでした。そこで韓国ロケに入る約1か月前から先生に教わって勉強を始めました。まずハングル文字を覚えてから、発音のお手本を聞いて、セリフの文字と意味を一緒に頭に入れていったんです。発音は、自分で練習した後に先生に聞いていただき、問題がある部分はその場で修正していきました。先生は役のキャラクターをとても大事にしてくれて、「住本だったら、こういう場面ではこう発音するだろう」と、役柄をふまえた指導をしてくれました。
おかげで韓国ロケの頃には、韓国の方とちょっとした会話ができるようになりましたね。キム・ガンウさんとも話したかったのですが、彼の役作りは徹底していて、住本を演じる僕と現場で言葉を交わさないようにしていたんです。彼の役どころは、日本に潜伏する工作員らしき男で、住本と敵対するというものでしたから。ただ、後でスタッフから聞いたのですが、本当は僕と話したいことがたくさんあったそうです(笑)。
韓国は映画文化が発達した国なので、俳優もスタッフもすばらしかったです。一級の娯楽作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ映画をご覧いただけたらと思います。