亜貴子の登場で
夫婦関係が試された!?
杏 子どもができて、娘のふ久が学校で問題を起こした頃は、「夫と妻」から「父親と母親」になって、ふたりの間には少し距離ができてしまった感じ。
東出 悠太郎は悠太郎で仕事が大変で……。子どものことはめ以子に任せきりになってしまっていたけれど、正直、男としてあの気持ちはわかる気がする。
杏 め以子はちゃんと食事を作って西門家の皆の暮らしの基盤になっているのに、悠太郎もあまり認めてくれず、子どもも言うことを聞かない。まるで袋小路だよね。今のお母さんたちも、あんな気持ちになることってあるんじゃないかな。
東出 確かに、どちらの気持ちもすごくリアルな感じがした。
杏 しかもあのあとさらに亜貴子さんが出てきて、夫婦関係がすごく試されている気がしたな。
東出 「あのとき、亜貴子にフラれてなかったら、どうなってたんだ」っていろいろな人に聞かれた。でも、とにかく悠太郎は、目の前の寂しそうな亜貴子を見て、「僕が助けてやらないと」って考えたんだと思う。あくまでも善意で……。
杏 だけど、どこか後ろめたいから内緒にして、ケーキ買って帰ったりしたんじゃないの!?
東出 えっ、まあ、確かに悠太郎のやっていたことはまったく問題ないわけではなく、自分で自分を勝手に肯定しようとしていただけというか……。ああっ、もうっ、そこは忘れてくれっ!
杏 ふふ(笑)。あの一件は男女で意見が分かれるよね。女性スタッフの間では、「あれはないよね」って声が多くて。
東出 あの頃、現場で女性スタッフの僕に対する反応が急にそっけなく感じられて。心なしか、悠太郎のカレーの量が少なかった気がしたり。「あれは芝居です!」って叫びたかった(笑)。
杏 あはは(笑)。だけど、家に帰ってきたときの、悠太郎の言い訳はすごかったよね。謝るわけでもなく、「つまみ食いはするけど、ちゃんと帰ってきます」ってことでしょ。
東出 それは僕も感じて。でも、岡本プロデューサーが、あの状況ですぐ「ごめん」って謝るような男にロクな男はいないって、脚本の森下佳子さんと意見が一致したんだって(笑)。それに頑固な悠太郎が、「ごめん」って言わずに、カレーの話に持っていってしまうのも、なんかわかるじゃない?
杏 確かに、ああいうところで不器用なのは、悠太郎らしいよね。大事なこと言おうとしているのに、滑りまくってて(笑)。
東出 そうなんだよ。理屈っぽかった悠太郎が、あんなにグダグダになっちゃって。でも、もう理屈じゃなくて、自分はめ以子のところに戻ってきたということを、一生懸命伝えるしかなかったんだと思う。
杏 私もあそこは理屈で考えるシーンじゃないと思って演じていた。ほかの人にはわからなくても、理屈抜きで丸く収まってしまうふたりになったんだよね。
東出 それにしてもめ以子って、本当に明るくて、強いよね。いつも純粋に人の幸せを考えている。純粋な人って、強いんだよね。人間としては悠太郎よりずっと強いと思う。
杏 め以子は、普通の人だったらいろいろ考えてやめてしまうことも、まず行動して、ダメだったらまた考えて。とにかく前へ前へ進んでいく女性だよね。
東出 贅沢が禁じられているときに堂々と豪勢な料理をふるまったりするのも、反骨精神とかではなくて、ただただ皆においしいものを食べさせたいだけって……すごく純粋で、そこがめ以子らしいよね。
杏 め以子を演じていて、私もこういう強さがほしいなって思うところはすごくある。何より、家庭というある意味逃げ場のない世界に入って家族を幸せにするために生きるってすごいと思う。私は今、仕事をしているけれど、女性としてあこがれるな。
東出 僕も、どんな制約がある仕事でも、自分の理想を捨てずに最善を尽くす悠太郎には、男としてあこがれを感じる。自分もそうありたいっていつも思う。
杏 安全な街を造りたいという夢にまっすぐな悠太郎は本当にすてきだよね。め以子もそこに一番惹かれているんだと思う。
酸いも甘いも
“ごった煮”にして……
東出 だけどこの夫婦、周りの人たちにいつも助けられているよね。祝言のシーンでの悠太郎のセリフに「お恥ずかしい騒動も多く、そのたびに皆様に教えられ、支えられ」というのがあったけれど、本当にそのとおりだと思う。登場人物は、優しくて魅力的な人ばかりだよね。
杏 本当にそう。ふ久の誕生のあと、8年経過するでしょう?その間にもお恥ずかしい騒動がたくさんあって、皆に助けられていたんだろうなっていろいろ想像しちゃった(笑)。
東出 でも今は、演じていてもいい夫婦だなって感じることが多いな。「あなたは本当に浅はかですね」「生まれたときから分別くさい人に言われたないですね」って言い合うシーンとか、ああいう感じ、いいよね。
杏 祝言を挙げた以降は、やや嫌味っぽいジャブを浴びせられるぐらいの間柄になったと感じることが増えたかな。それに、め以子はやっぱり悠太郎に支えられているって感じることも。
東出 たとえば?
杏 め以子は家計を切り詰めて近所の子どもたちにおやつを作ったりするんだけれど、悠太郎に許可を得ているわけじゃない。でも、悠太郎はあとから知っても、当然のようにめ以子を応援してくれるんだよね。
東出 確かに。め以子が豪勢な料理を作ったときもそうだった。夜になってめ以子が大金をはたいたって告白したとき、悠太郎は怒っていたけれど、実はちょっとうれしいんだよ。
杏 め以子が思いつくことって、いつも普通じゃないでしょう。私も台本を読んでいていつも驚くの。だけど、悠太郎はそれを必ず受け入れてくれるのね。
東出 悠太郎は、め以子が思いも寄らないことをしでかしてくれるのが楽しくて仕方ないんだと思う。やっぱりこのふたりは、お互い自分にないものを相手から与えられているんだよね。だから、“ふたりでひとつ”感がすごくあるんだと思う。
杏 今後は、戦争という試練がやってくるなかで、つらいこと、悲しいことを、どうやってふたりで乗り越えていくかが、物語の中心になっていくよね。
東出 でも、どんなに暗い時代でも、日常のどこかに、ふっと笑える明るい瞬間はあったと思う。森下さんはきっと、そんなちょっと笑えたり、幸せな気分になれる瞬間を描いてくれるんじゃないかな。
杏 そうだね。絶対、ただ暗く悲しいだけのドラマにはならないと思う。
東出 だよね。なんたって主人公がめ以子なんだから。
杏 め以子は、この先も、酸も甘いも、うれしいも悲しいも“ごった煮”にして、とにかく前へ進んでいくと思うの。
東出 明るいめ以子が皆を最後まで引っ張ってくれるのを、僕も期待しています!
了
(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ごちそうさん Part2』より再録)
杏さん:スタイリング=河部菜津子(KiKi inc.) Hair&Make-up=平元敬一
東出昌大さん:スタイリング=檜垣健太郎(little friends) Hair&Make-up=遠山美和子