1930年代 黎明期&戦前のNHKテキスト 【NHKテキストクロニクル】

2022/05/01

NHK出版によるテキスト発売開始から90年が過ぎ、さらに100年に向けた新年度がスタートしました。
学習の合間にちょっとひと息、NHKテキストの歴史を振り返る特別企画〈NHKテキストクロニクル〉をお届けします! ドラマ『カムカムエヴリバディ』でも話題になった英語講座や、さまざまな学びの講座……あの頃のあの人は、どんなテキストを手に取っていたのでしょうか?

 今回は、戦前の1930年代のテキストを取り上げていきます。目を見張るのが、バラエティに富んだテキストの内容。まずは時代背景から見ていきましょう!


NHK出版の設立とテキスト誕生

 そもそも日本でラジオ放送がはじまったのは、1925年3月22日。そこから3年かけ、全国での中継放送が実現します。それに伴い番組も多様化。そして1931年、教育系番組の増加に伴い、全国で番組とセットで使う学習書=テキストを販売できる専門の出版社が必要となり、日本放送出版協会=現NHK出版が誕生します。

 講義を耳で聞くからこそ、目で見て学べるテキストは需要が高く、多くのテキストが発行されました。英語をはじめとする語学系テキストのほか、趣味や実用、子供の学習など、その種類はさまざま。今回はその中から、特徴的な5冊をピックアップしました。

1935年発刊『基礎英語 春期』

 NHK出版から英語テキストの発刊がはじまったのは1932年。そこから現在まで、変わらず高い人気を誇っています。ちなみに今回取り上げた『基礎英語』は、今でも続いている英語学習の定番中の定番シリーズ。現在の英語テキストとの大きな違いは、日本語訳がテキスト内にあまりないこと。当時学習をしていた人々は、ほぼ英語のみで構成されたテキストを片手に、ラジオから流れる講義や翻訳を固唾を呑んで聞いていたのかもしれません。

1937年発刊『速成 佛蘭西語講座 夏期』

 フランス語をはじめとする語学テキストは、NHK出版からとしては、実は英語テキストよりも先の、1931年から発刊されていました。現在でも多様な言語を扱うNHKテキストですが、そのはしりと言っても過言ではありません。この『佛蘭西語講座』を見てわかるのは、表現方法は違うかもしれませんが、学習方法そのものは大きく変わっていないということ。現代でも通じそうな内容が、90年前から展開されていたのが、不思議な感じがしますね。

1935年発刊『春から夏への婦人・子供服と帽子』

 1930年代のお洒落な女性たちに人気だったであろう『婦人・子供服と帽子』のテキスト。こちらは春から夏にかけての号のため、秋から冬の号もあったと考えられます。現代の「春夏」「秋冬」というファッションの概念も、当時から浸透していたと思うと興味深いですね。長さに関する表記に分数を用いられていることから、ある程度の経験や学識を持った方が読者だったことも想像できます。服飾の本ながら時代考察もできる1冊です。

1935年発刊『昆蟲の科學 魚の科學』

 この『昆蟲の科學 魚の科學』のテキスト。題名からすると子供向けのように感じますが、内容は大人が読んでも学びになることが溢れています。特に気になるのが、写真でも取り上げた「くろばい=ゴキブリの幼虫期の感光度の変化」。ゴキブリそのもののイラストや写真などは出てこないため嫌悪感なく読めますが、なぜこんな研究を当時されていたのか気になるところです……。

1936年発刊『手紙の書き方』

 連絡手段が増えた現代、手紙を書くことはことさら特別なことになっていますが、1930年代では重要な連絡手段でした。この『手紙の書き方』には、季節の挨拶や縁談の断り方など、かしこまった内容を書くときのマナーがまとめられています。当時の手紙を見てみると、相手が想像する“余白”も残して書く、詩的な文章が主流だったことがわかります(ただ解説には、余白にどんな想いが込められているか事細かに書かれていました……)。


 1930年代へのタイムスリップ、いかがでしたでしょうか?
バラエティに富んだテキストたちから、戦前の時代背景がチラッと見えた気がしますね!〈NHKテキストクロニクル〉では、貴重な対談や他の時代のテキストも紹介していきます。ぜひご一読ください。

NHKテキストの90年の歩みがわかるスペシャルサイトをご用意しました。
進化していく勉強のスタイルについて、チェックしてみましょう。

https://mag.nhk-book.co.jp/lp/chronicle/

◆編集:井上峻
◆初出:NHK出版 学びの秘訣(2021年11月5日)

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