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NHK出版|WEBマガジン|総理にされた男 page 11/14

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中山七里「総理にされた男」:首相官邸に連行された売れない役者に待ち受ける衝撃的な依頼。理想と現実、うずまく陰謀……。政治をめぐるエンターテインメントサスペンス!

11会うその人に、特別な感情を持つことができるだろうか。むしろ、何の感慨も湧かないことの方が怖い。自分の中に、母親を思う気持ちが一グラムも存在しないことを、今さら確かめたくもないのだ。「何も、兄弟揃って来いってわけじゃないんだろ?」少し話し合った後、とりあえずの結論としてトモローは言った。「兄貴は、お義姉さんと子供たちを連れて、行ってくればいいよ。俺は、もう少し考える」「そうか」その答えに兄貴は、特に反対しなかった。ただ、数秒黙った後──「本当に、すまなかったな」と、その日、何度も口にしている言葉を再び繰り返すばかりだった。「何だか、厄介なことになっちゃったよ」居酒屋で兄貴と話した日、家に戻ったトモローは、聞いたばかりの母親のことを美智子に話した。やはりトモローの母親が広島にいたという事実に驚いていたが、すでに余命が少ないという話になると、いつになく真剣な表情になった。「それは……やっぱり、会っておいた方がいいわよ」やはり台所でホットウイスキーを飲みながら、美智子は言った。「そんな簡単なものじゃないって言うのはわかるけど、会っておかないと、きっと後悔の種になるわよ」