1985年に発表されたウィ・アー・ザ・ワールド(We Are The World)は、中学校の教科書にも掲載されるほど著名な楽曲です。当時のスターたちが人種を超えて集い、アフリカの飢餓救済を訴えたチャリティ・ソングの金字塔。そんな曲に「呪い」なんて言葉を付した本書を見て、ギョッとされた方は多いのではないでしょうか。
きっかけは2006年のことでした。〈ウィ・アー・ザ・ワールド〉のレコーディングには45人が参加したはずなのに、LPジャケットの集合写真には43人しか映っていない、しかもその2人だけがすでに亡くなっている……。
その事実に気がついた著者の西寺さんは、持ち前の探究心で独自研究を開始。すると、この楽曲に参加したメンバーの多くが、翌86年にかけてキャリア最大級のヒットを飛ばした後、軒並み失速してしまうことを発見しました。それが「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」です。
本書の読みどころはたっぷりとあります。ミステリのような筆致で「呪い」の謎に迫るかと思えば、映画誕生に始まるアメリカン・ポップスの歴史を鮮やかに整理するさまには膝を打つばかり。音楽ファンのみならず楽しめる一冊となりました。
著者の西寺さんは、ライオネル・リッチーをして「私が関わった音楽を世界で最も理解している」と言わしめた人物。今年は〈ウィ・アー・ザ・ワールド〉発表から30年。著者渾身の書き下ろし、ぜひご一読ください。
(NHK出版 粕谷昭大)