2009年のNHKドラマ「火の魚」以来、親交を温めてきた尾野真千子さんと渡辺あやさん。「あやさん」「真千子」と呼び合う仲のふたりが、「カーネーション」にかける思いを語り合います。
糸子のセリフを思った以上に膨らませてくれる尾野真千子
尾野 脚本家さんって、遠い存在というイメージがあったんやけど、あやさんは違う。
渡辺 「火の魚」の現場で初めて真千子に会って、「親戚みたいな気ぃする」って言われた(笑)。あのとき、この子面白いなあ、かっこいい役もコメディーもいけそうと思った。
尾野 うふふふ。
渡辺 そう言ったら、「暗い役ばっかり来んねん」て。
尾野 そうそう。なんか“薄幸系”の役が多いねん。
渡辺 真千子本人のキャラクターは糸子役に生きてて、今は糸ちゃんにしか見えない。
尾野 あやさんはさ、現場に来ても、役者に「こうしてほしい」とか、何も言わへんね。
渡辺 その分、制作陣との打ち合わせではこわいよ。声がめっちゃ低くなる(笑)。「このセリフは必ず入れたいです」とか。
尾野 どぎついこと書いてくるしな(笑)。
渡辺 ヒヤヒヤして書いてはいるんやけど、頭の中で糸ちゃんがセリフをどんどん言いたがっていて、私はそれを取りこぼさないように拾ってる。そして、それを真千子が思った以上に膨らませてくれるしね。啖呵の迫力は3倍増し。
尾野 あはは、そこ!? お母ちゃん役の麻生祐未さんが、私が啖呵を切るとケラケラ笑うねん。私はいつも大変よ。啖呵を際立たせたいがために、前のセリフはこうしとかなあかん、とか。
渡辺 誰にでもできることじゃないと思う。真千子はうますぎ。まくしたてるときのリズムが聞いてて気持ちいい。
尾野 へへへ。
渡辺 現場、楽しそうやね。
尾野 なんかもうね、みんなでワイワイ。カメラが回ってなくても、ドラマの世界がずーっと続いてる感じ。ほら、私、基本的に人見知りやん?
渡辺 そうやね。自分から話しかけられないタイプやね。
尾野 でも、糸ちゃんはそうちゃうから、大先輩の役者さんにも「おっちゃ〜ん!」「おばちゃ〜ん!」って、糸ちゃんのキャラのまま声かけまくってる。あとね、家族のシーンでは、カットの声がかかるまでアドリブの芝居を楽しむねんよ。
渡辺 即興芝居みたいな感じ?
尾野 そうそう。特にお父ちゃん役の小林薫さんは、シーンが終わっても必ず芝居を続けるから、それに乗っかっていったり。
渡辺 それが映像に反映されてるよね。私は部屋にこもっての作業だから、うらやましいなぁ。そういえば、私が現場を訪ねた日に、お父ちゃんに殴られるシーンを撮ったでしょ。プロデューサーから聞いたの。「渡辺さんが帰ったあと、薫さん、ほんとに殴ってました」って。
尾野 もともと私、打たれるふりがうまくないのよ。でも、大事なシーンやったし、リアルに見えなあかんと思ったの。そんで、薫さんに「殴るのいやですか?」って聞いてん。そしたら「おまえがええんやったら、やるよ。そのほうが妹らの反応もリアルになるやろうから。それに俺のビンタは痛くないし」って(笑)。
渡辺 みんな知らんかったん?
尾野 知らんかった。そんでね、めっちゃ痛かった(笑)。
渡辺 ひゃぁ〜!
尾野 「こんなん赤く腫れるんや」って、メイクさんが感心してた。ただね、意外と早く腫れがひくの。しかも、私の顔をとらえるカメラが、遠めやねん。
渡辺 せっかく赤いのにね。
尾野 そうやねん。でも、痛いし悔しいし、生の感情がわいて、殴ってくれてありがたかった。
土台がしっかりしているからゲストキャストが映える
渡辺 映像を見てつくづく思ったのは、ゲスト的に登場する方々が、すごくいい味を出していらっしゃる。百貨店の支配人役だった國村隼さんなんて、最高やった。
尾野 ああ〜!
渡辺 糸子との会話の間合いが、絶妙。根岸先生役の財前直見さんもすばらしかった。
尾野 そうやった!
渡辺 レギュラー陣が創り上げる土台がしっかりしていることもあると思う。だから、どんな方が入ってこられても映える。
尾野 春太郎とかね。
渡辺 春太郎はまだまだ引っ張るよ。テレビの時代に入るし。
尾野 引っ張ってほしい人、ほかにもたくさんおるなぁ。神宮司さんの娘さんとか、めっちゃ引っ張ってほしいわぁ。
渡辺 お父ちゃんが花嫁衣裳を用意しようとして、できなかった人!?
尾野 出番はちょっとやったけど、ほんまに糸子の町にいる感じがしたんよ。
渡辺 ああ、わかる!