Talks 連続テレビ小説「カーネーション」対談 演じてうれしい、書いて楽しい 尾野真千子(ヒロイン・小原糸子役) × 渡辺あや(脚本家) /文=煖エ和子 写真=疋田千里 撮影協力=ホテルニューオータニ大阪

NHK出版 Webマガジン

想像と違うことがいっぱい ズレがあるから面白い

尾野 連続ドラマって、リアルタイムで視聴者の感想が聞けるやんか? 今回うれしいのは、真剣に見てくれてると感じるの。
渡辺 町で声をかけられる?
尾野 この間、「カーネーション!」って声かけられた(笑)。
渡辺 はは、漠然としすぎや!
尾野 面白いのが、視聴者の反応が予想と違うときがあるの。笑ってくれるやろうと思ったら、「泣かしてもろうた」とか。
渡辺 私の想像とも違ってたりする。物語のピークが微妙にズレてたり。そこは役者さんたちが演じてみないとわからないことで、ズレても必ずどこかで巻き返しがあったりする。なんとも思ってなかったシーンで笑えたりすると、すごくうれしい。
尾野 薫さんと私は、よく脚本の話をしてた。「おもろいよな〜」って。「渡辺さんて、今までどんな作品書いてんやろ」って聞かれて、スマートフォンで検索して見せてあげたりして。
渡辺 やめて〜! ドキドキしてしまう〜! ずっと昔から拝見してきた俳優さんやし、うれしい反面、とてもこわい。
尾野 あやさんの脚本て、読んでいくうちにブワッと想像が広がっていくのよ。頭の中でいろいろイメージできるの。役者さんの動きや、色のイメージが浮かぶときもある。
渡辺 へぇ〜。
尾野 ただ、期間の長いドラマやから、現場でいろいろ調整していかなあかんことが出てくる。「こうしたほうがもっとうまくいくんちゃうか」って演出家に相談したり。
渡辺 朝ドラは、週によって演出家が変わる。だから、むしろ一連の流れを把握しているのはレギュラーの役者さんで、核となる人たちがひとつの世界を作っていれば、大きくブレることはないと思う。
尾野 うん、うん。
渡辺 現場で必然的に育つもんがあるやろうし、きっとそのほうが正しい。私は、人物像のだいたい5割が脚本家、残りの5割が役者さんで作られると思ってて、それが子役だと7割くらい書いておこうとなるし、キャリアのある役者さんだと4割くらいにとどめておこうとなる。トータルで10を目指さないとダメで、欠いても超えても人物に違和感が出てしまう。糸子は、いかに私の仕事を減らすかっていう感じになってるよ。「これは真千子しかわからへんわ」って。
尾野 それもこわいわ〜(笑)。
写真2

戦争を経て、糸ちゃんはますますたくましく

尾野 今、撮影しているのは戦争中の辺りなんよね。
渡辺 戦争経験がないので資料をもとに書いているけど、どんなものを食べてたのか、どんな服装だったのか、そういう生活に即したことを描きたかった。もんぺをはかない人を注意するおばちゃんの写真とかも参考にした。顔がめっちゃコワいねん。
尾野 ドラマに出てくる澤田さんや! ほんまコワい(笑)。イメージどおりやと思う。
渡辺 そうなんや(笑)。澤田さんは、戦争が終わったあとも出てくるから、覚悟しといて。
尾野 私、戦争って暗いイメージしかなかったの。でも脚本を読むと意外と明るく、前向きに描かれていて、あやさんに相談したね。
渡辺 そうそう。「勘助の出征を見送るシーンで糸子が笑ってんねんけど、大丈夫なんかな」って。私もあそこはすごく迷った。でも、戦争初期は、やっぱり楽観的だったらしい。資料の写真を見ても、みんなすっごいうれしそうに見送ってるの。
尾野 そうなんやね。で、最初が楽観的やから、勘助が一度帰還して、戦争が激しくなってまた出征するときは、ほんま悲しかった。糸子はお父ちゃんも勝さんも亡くすけど、お父ちゃんはずっとそばで見守ってくれてる感じがあったから、勘助のほうが別れがつらかった。勘助が死ぬことだけは許されへんて。
渡辺 私も書いててつらかった。書いたあとにスタジオを訪ねたとき、尾上寛之さんにお会いして、思わず「カンスケぇ〜!」って涙声を出してしまった。キョトーンとしてはったけど。
尾野 あはは!
渡辺 戦争中の糸子は、真千子とちょうど同世代くらいやね。
尾野 そう。だから地声で啖呵切れる(笑)。戦争中の糸ちゃんはほんまたくましい。女手ひとつで、家族や縫い子さんを食べさせなあかんし。尾野真千子もしっかりせなあかんと思うけど、ありがたいことに、糸子というキャラクターにみんながついてきてくれている感じがする。
渡辺 戦後、糸ちゃんはなんと、恋をするからね。ある程度歳を重ねてからの恋なので、一筋縄ではいかない。人生って、まっすぐ歩きたくてもうまくいかないもので、糸子は、戦争という外的要因だけでなく、みずから招く過ちから道をそれることもあって、いろんな試練に立ち向かってくことになると思う。
尾野 この先あやさんはどんな糸子を書いていくんやろ。想像つかない部分もあるし、糸子は変わらず信じた道を突っ走っていくという予感もある。
渡辺 糸ちゃんは、「野性」を持っているキャラクターで、だからこそ間違ったこともする。制作陣や視聴者の「こう描いてほしい」という思いも感じつつ、野性を殺したくはないので、うまく落としどころを見つけていきたい。あと、もう1回くらい糸子の取っ組み合いが見たいな。
尾野 やっぱりそこか〜(笑)。
(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 カーネーション Part2』より再録)

>> ※尾野真千子さんのインタビュー(2011年9月掲載分)はこちら。
尾野真千子
尾野真千子(おの・まちこ) 〜写真 右〜
1981年生まれ、奈良県出身。97年、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞作品「萌の朱雀」のヒロインとしてデビュー。シンガポール国際映画祭主演女優賞受賞。以降、映画、ドラマで活躍。2009年、NHK広島発ドラマ「火の魚」(室生犀星・原作/渡辺あや・脚本)で、第36回放送文化基金賞演技賞を受賞した。出演作に、映画「殯(もがり)の森」「クライマーズ・ハイ」、ドラマ「Mother」「名前をなくした女神」、NHKドラマ「外事警察」など。
(わたなべ・あや) 〜写真 左〜
1970年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、ドイツで5年間過ごす。2003年に映画「ジョゼと虎と魚たち」で脚本家としてデビュー。主な作品に映画「メゾン・ド・ヒミコ」「天然コケッコー」、NHKドラマ「火の魚」「その街のこども」(第36回放送文化基金賞脚本賞受賞)などがある。「火の魚」はイタリア賞をはじめ、海外のコンクールでも多くの賞に輝き注目された。

NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 カーネーション Part2

ドラマ後半に向けて、新たな出演者紹介やあらすじだけでなく、ヒロイン・尾野真千子×脚本家・渡辺あや対談や、コシノジュンコインタビューなど豪華企画に加え、ファッション&セット&小道具など制作舞台裏紹介、岸和田の食・ことば・文化の紹介など、独自記事満載で贈るガイドブック。
〔AB判並製・96ページ〕
作 渡辺あや
製作協力 NHKドラマ制作班
NHK出版 編
NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 カーネーション Part2
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NHK連続テレビ小説 カーネーション 下

戦争を乗り越え、戦後の復興の中で糸子はさらなる困難に立ち向かい、成長していく。そして、優子、直子、聡子の三人の娘たちのそれぞれのドラマもついに動き始める。仕事、育児、恋……糸子の波乱万丈の物語、感動の完結編(第12週〜第26週までの内容を収載)。
〔四六判並製・304ページ〕
作 渡辺あや
ノベライズ 豊田美加
2012年2月末発売予定
NHK連続テレビ小説 カーネーション 下
 

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