想像と違うことがいっぱい ズレがあるから面白い
尾野 連続ドラマって、リアルタイムで視聴者の感想が聞けるやんか? 今回うれしいのは、真剣に見てくれてると感じるの。
渡辺 町で声をかけられる?
尾野 この間、「カーネーション!」って声かけられた(笑)。
渡辺 はは、漠然としすぎや!
尾野 面白いのが、視聴者の反応が予想と違うときがあるの。笑ってくれるやろうと思ったら、「泣かしてもろうた」とか。
渡辺 私の想像とも違ってたりする。物語のピークが微妙にズレてたり。そこは役者さんたちが演じてみないとわからないことで、ズレても必ずどこかで巻き返しがあったりする。なんとも思ってなかったシーンで笑えたりすると、すごくうれしい。
尾野 薫さんと私は、よく脚本の話をしてた。「おもろいよな〜」って。「渡辺さんて、今までどんな作品書いてんやろ」って聞かれて、スマートフォンで検索して見せてあげたりして。
渡辺 やめて〜! ドキドキしてしまう〜! ずっと昔から拝見してきた俳優さんやし、うれしい反面、とてもこわい。
尾野 あやさんの脚本て、読んでいくうちにブワッと想像が広がっていくのよ。頭の中でいろいろイメージできるの。役者さんの動きや、色のイメージが浮かぶときもある。
渡辺 へぇ〜。
尾野 ただ、期間の長いドラマやから、現場でいろいろ調整していかなあかんことが出てくる。「こうしたほうがもっとうまくいくんちゃうか」って演出家に相談したり。
渡辺 朝ドラは、週によって演出家が変わる。だから、むしろ一連の流れを把握しているのはレギュラーの役者さんで、核となる人たちがひとつの世界を作っていれば、大きくブレることはないと思う。
尾野 うん、うん。
渡辺 現場で必然的に育つもんがあるやろうし、きっとそのほうが正しい。私は、人物像のだいたい5割が脚本家、残りの5割が役者さんで作られると思ってて、それが子役だと7割くらい書いておこうとなるし、キャリアのある役者さんだと4割くらいにとどめておこうとなる。トータルで10を目指さないとダメで、欠いても超えても人物に違和感が出てしまう。糸子は、いかに私の仕事を減らすかっていう感じになってるよ。「これは真千子しかわからへんわ」って。
尾野 それもこわいわ〜(笑)。
戦争を経て、糸ちゃんはますますたくましく
尾野 今、撮影しているのは戦争中の辺りなんよね。
渡辺 戦争経験がないので資料をもとに書いているけど、どんなものを食べてたのか、どんな服装だったのか、そういう生活に即したことを描きたかった。もんぺをはかない人を注意するおばちゃんの写真とかも参考にした。顔がめっちゃコワいねん。
尾野 ドラマに出てくる澤田さんや! ほんまコワい(笑)。イメージどおりやと思う。
渡辺 そうなんや(笑)。澤田さんは、戦争が終わったあとも出てくるから、覚悟しといて。
尾野 私、戦争って暗いイメージしかなかったの。でも脚本を読むと意外と明るく、前向きに描かれていて、あやさんに相談したね。
渡辺 そうそう。「勘助の出征を見送るシーンで糸子が笑ってんねんけど、大丈夫なんかな」って。私もあそこはすごく迷った。でも、戦争初期は、やっぱり楽観的だったらしい。資料の写真を見ても、みんなすっごいうれしそうに見送ってるの。
尾野 そうなんやね。で、最初が楽観的やから、勘助が一度帰還して、戦争が激しくなってまた出征するときは、ほんま悲しかった。糸子はお父ちゃんも勝さんも亡くすけど、お父ちゃんはずっとそばで見守ってくれてる感じがあったから、勘助のほうが別れがつらかった。勘助が死ぬことだけは許されへんて。
渡辺 私も書いててつらかった。書いたあとにスタジオを訪ねたとき、尾上寛之さんにお会いして、思わず「カンスケぇ〜!」って涙声を出してしまった。キョトーンとしてはったけど。
尾野 あはは!
渡辺 戦争中の糸子は、真千子とちょうど同世代くらいやね。
尾野 そう。だから地声で啖呵切れる(笑)。戦争中の糸ちゃんはほんまたくましい。女手ひとつで、家族や縫い子さんを食べさせなあかんし。尾野真千子もしっかりせなあかんと思うけど、ありがたいことに、糸子というキャラクターにみんながついてきてくれている感じがする。
渡辺 戦後、糸ちゃんはなんと、恋をするからね。ある程度歳を重ねてからの恋なので、一筋縄ではいかない。人生って、まっすぐ歩きたくてもうまくいかないもので、糸子は、戦争という外的要因だけでなく、みずから招く過ちから道をそれることもあって、いろんな試練に立ち向かってくことになると思う。
尾野 この先あやさんはどんな糸子を書いていくんやろ。想像つかない部分もあるし、糸子は変わらず信じた道を突っ走っていくという予感もある。
渡辺 糸ちゃんは、「野性」を持っているキャラクターで、だからこそ間違ったこともする。制作陣や視聴者の「こう描いてほしい」という思いも感じつつ、野性を殺したくはないので、うまく落としどころを見つけていきたい。あと、もう1回くらい糸子の取っ組み合いが見たいな。
尾野 やっぱりそこか〜(笑)。
了