マッサン(亀山政春)はウイスキー造りという夢に向かってひたすら走り続けます。情熱の深さが誰よりも突出している男です。でも、殊にウイスキー造りとエリーのことにばかり情熱を燃やしているぶん、それ以外のことは少し抜けているようです。空気が読めないというか、読まないというか……。マッサンは、自分とエリーが歩む足元に流れている時間をすごく大事にして生きているのだろうと思います。朝ドラのヒロイン、ヒーローの描き方として、「マッサン」はやや異色なのかもしれません。
実は僕もマッサンのように喜怒哀楽が表に出やすく、おだてられると調子に乗るし、貶されるとすぐに凹みます。それでもマッサンの職人魂にはとても共感しますし、憧れもあります。仕事や生活の中で、自分の希望より周りから求められていることや楽な方法をやむを得ず選んでしまう……という葛藤ってありますよね。でも、マッサンは誰にも媚びず、自分が思うように生きようとします。そのまっすぐな姿勢に憧れます。俳優という仕事も、映画やドラマなどの中でセオリーというレールに乗りつつ、そこに個性やサプライズを付け加えなければ人に感動してもらえないと、僕は思っています。マッサンと僕は、セオリーというレールに乗り続けたくないという思いが、似ているのかもしれません。
とにかく演じていて楽しいです! プレッシャーなどいろいろ背負い込んで落ち込むこともありますが、新しい台本を読むと、一気にモチベーションが上がります。「マッサン」は夫婦を描いたドラマですが、作中に「内助の功」という言葉が出てきます。これって日本人ならではの考え方だと思うんです。男って目に見える愛情じゃない部分が実はうれしかったりする。こっそり自分のためにしてくれたという行為そのものもそうですが、そのときの相手の気持ちを想像すると、僕はとても愛おしくなります。そういうお互いの気持ちを慮って大事にして感じ合える夫婦ってすてきなのではないかと思います。
エリー役のシャーロット・ケイト・フォックスさんは本当に真面目で、誰よりも頑張っています。アメリカから来日して、日本の撮影現場で新しいことに毎日直面しているので、モデルとなった竹鶴リタさんと同じ状況なんですよね。彼女が感じる驚きや涙、笑いは、とてもリアルなのではないかと思います。
特にすごいと思うのは、リアクションの瞬発力。たとえば、泣くシーンでは、彼女はテストの段階から号泣します。自分に素直でいたいという彼女の真摯な美学を感じます。文化の違いもありますが、想像を上回るリアクションが返ってくるのが楽しく、これも見どころだと思います。さらにシャーロットさんには、なぜか日本人が忘れてしまった日本のよさのようなものを感じます。彼女との撮影を重ねていると、俯瞰した目線からの日本らしさを感じられるのが不思議です。