——2014年11月1日に行われたイベント「BKワンダーランド」でファンの手応えや熱気を感じて、おふたりはどう思われましたか?
玉山 今まで役者という仕事をしてきて、あんなふうにテレビというフィルターを通さずに、直接視聴者の方に会ったり声を聞いたりする機会がそれほどなかったんです。だから、僕たちの表情や言葉のひとつひとつを逃さないように見てくださるお客さんの姿を目の前で見ることができたのは、貴重な体験でした。それは「マッサン」という作品での僕たちに対する反応なわけで、演じてきて報われた思いです。それと同時に、これから先、僕たちは視聴者の皆さんの「思い」を背負っていくのだろうなと思いました。
シャーロット 視聴率がとても高いということは、放送開始当初から聞いていましたが、実際にイベントで自分の目で確かめてみて、朝ドラの人気のすごさを実感しましたし、何か使命感のようなものを感じました。
玉山 きっかけは自分の夢から始まったけれど、マッサンは、多くの人たちから夢を託される。鴨居の大将(鴨居欣次郎)、住吉酒造の田中大作社長、広島の両親……。実は、むごいことだと思うんですが、人って意外に軽々しく夢を託すんですよね。もちろんいいことでもあるけど、託された側は、それを返していかなくてはならない。僕自身、子どもという守るべきものができて、自分の中に新しいエネルギーが生まれるのを感じたことと似ていると思いました。
——責任をエネルギーに変えていくということでしょうか?
玉山 そうですね。マッサンとしても、俳優玉山鉄二としても、しっかりやらなくてはいけないという義務がある。自分の気持ちだけでできることって限界があると思うんですが、責任を負ってしまうと「ま、いいか」とは言えない状況になり、自分の無力さに悩んだり、イライラしたりすることもあります。
シャーロット 私は、まだ振り返る余裕はなくて、ひたすらワンシーンずつ必死にそのストーリーに向き合っているだけ。とにかくエリーを生きるしかない。その結果が演技に100パーセント出せているかどうかはわからないけれど、毎日精いっぱいの演技をしています。でも、あのイベントは本当に特別だったので、あの日のことは忘れません。きっと、二度とできない経験をしたと思います。本当に感謝の気持ちでいっぱいですね。
玉山 クランクインしてから数か月は本当にがむしゃらで、雲の中でもがいているような感じでした。でも、放送が始まり、反響が届くようになり、僕とシャーロットさんをはじめ制作スタッフ皆の中で、「向かっていく方向は間違っていないんだ」という自信が生まれました。
——後半の意気込みについてうかがえますか?
玉山 残り約3か月。手応えも感じていますし、オンエア当初に思っていたのとはまた違う足跡を、これからは刻んでいこうと考えています。現場は本当に大変で、僕はあくまでもベルトコンベアーに載っかっている荷物みたいな状態だと思っていますけれども、その中でどこまで職人魂を見せていくことができるかを意識して年を越したいなぁと。今のいい勢いにただ乗っているだけでは、たぶんクランクアップしたときに悔しい思いをしそうな気がするんです。これまでやってきた芝居をしっかりみしめつつ、気を引き締め直したいと思います。
シャーロット 私は、大阪のシーンがすごく楽しかったんですよね。大阪編が終わったとき、「半分終わったんだ」「こんな経験はもう人生でできないかもしれない」と思いました。
玉山 僕は、あんまり仕事仕事というタイプじゃないので、モチベーションが途切れないように、この正月は「餅は食わない」と自分に戒めを課しています(笑)。もしかして、そこはマッサンと似ているかもしれないのですが、ひとつ崩れると全部ダメな気になってしまうんです。こんなことを言ってて、餅を食べて、もし正月明けに太っていたらごめんなさい(笑)。
シャーロット 私は、年末年始に大切な家族が来日することになっているから、少し忘れてもいいかな(笑)。
玉山 余市編では、マッサン一家と熊虎一家という血縁関係のない家族が、同じ敷地内で暮らします。マッサン夫婦が、エマに養女だと話そうとしたとき、ハナと俊兄が先走っちゃうけど、そういう関係もまた魅力的だと思う。小さなコミュニティーのすばらしさを、視聴者の方にも感じていただきたいです。
シャーロット こんな経験は二度とできないだろうから、1秒1秒を大切にやっていこうと、日々自分に言い聞かせています。もちろん、「マッサン」というドラマのためでもあるけれど、同時に自分の人生のために、1秒1秒を大切にして過ごしたいと感じています。
取材・文=藤嶋ひじり 撮影=野山昌一(G.Fプロ) シャーロット・ケイト・フォックスさん通訳=塩屋孔章
玉山鉄二さん:スタイリング=袴田能生(juice) Hair & Make-up=TAK for DADACuBiC@3rd
シャーロット・ケイト・フォックスさん:スタイリング=濱田 恵(mugico.) Hair & Make-up=有限会社ブロード
※この対談は2014年12月初旬に行われたものです。
了
(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 マッサン Part2』より再録)