TOPICS Interview マリーア・ドゥエニャス(2) 海外ドラマ「情熱のシーラ」 原作者

写真 マリーア・ドゥエニャス
last updated Nov.1,2015.

「メイキング・オブ『情熱のシーラ』」

デビュー小説がドラマにもなり、世界的に大ヒット!
その魅力はどこにあるのでしょうか?
著者マリーア・ドゥエニャスさんが、来日記念講演会で語ってくださいました。
(協力:セルバンテス文化センター東京)

忘れ去られていた歴史を
甦らせたかった

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まず私が小説を書きはじめようと考えたときに、とくにモロッコがスペインの保護領だった40年あまりの時期(1912‐56年)をぜひ書きたいと思いました。スペイン人であっても、当時を直接知っている人は少なく、スペイン文学界でもあまり取り上げられたことがないからです。

スペインの歴史の中では非常に大切な時期で、ジブラルタル海峡を通じてアフリカに渡ったスペイン人がたくさんいました。私の家族もそうでした。私自身はスペイン生まれですが、母からよくモロッコの思い出話を聞いたものです。『情熱のシーラ』を通じて、この時代に新しく興味をもつようになった人たちもたくさんいます。


実在の人物から、インスピレーションを得る

この時代のことを調べていくうちに、私は、フアン・ルイス・ベイグベデルというスペイン保護領モロッコの高等弁務官と、その愛人ロザリンダ・フォックスに出会いました。国立図書館でロザリンダの自伝も発見しました。その中で、「『ロザリンダ・フォックスがいなかったなら英国は戦争に勝たなかっただろう』と、チャーチル自身が言っていた」と書いてあるんですが、これは明らかに言いすぎでしょうね(笑)。

ベイグベデルはロマンチストで、カリスマ性のある人物。スペイン内戦で、モロッコの一般市民がフランシスコ・フランコ政権の味方についたのも、彼が裏で動いたおかげです。

私の中で、シーラが動きだすまで

ただ、私は歴史の専門家ではありませんし、史実を本筋にすると、自由に書けないことに気づきました。私はとにかくフィクションが書きたかった。そこで、シーラという人物を思いつきました。

彼女は若い女性の仕立屋として、1935年ごろから第2次世界大戦の終わりにかけて、どんどん成長していきます。貧しい一般市民だった彼女は、最終的には同じマドリードで上流階級の貴婦人たちと交流するまでになります。

実際は野望もなく、いろいろな人の気持ちに傷つきながら生活しているようなか弱い女性。ただ、いろいろな出来事に翻弄されて、成長せざるをえなかった。彼女は、ただ、スペインが第2次世界大戦に参戦しないようにという目的で、動いているんですね。当時はごぞんじのとおり、フランコはドイツとのつながりを強めようとしていた時期でもありますので、非常に難しい役目(スパイ)を自ら担ったのです。

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生身の人間を描きたい

読者からは、読みはじめると、次はどうなるのだろうと気になってしまう構成だとよく言われます。『情熱のシーラ』は、恋愛小説でもあり、またスパイ活動、歴史小説、冒険小説でもある。私は特定のジャンルを考えていたわけではないんです。もちろん、スペイン内戦や第2次世界大戦などの背景はありますが。

また、つねに人間らしい登場人物を描くよう心がけました。彼らが何を感じ、どう考えているのか。人間らしく失敗したり、失望したり、光の部分があったり、影の部分があったり、喜びがあったり、悲しみもあるわけです。

ちょうど私が作品を発表したときには、『ミレニアム』というミステリーの人気が少し衰えはじめた時期だったんです。北欧の血なまぐさい作品に少しだけ飽きが始まったころに、まったく反対のテーマを、私は提供したと言えるのかもしれません。

 

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