小説の中の女性たちはだんだんと力強くなっていくのですが、野望をもって成長したわけではないんです。世の中の流れに押されて、そのような女性に成長しただけなのです。それに対して男性は、たとえばフランコにしても、あるいはほかの男性も、すべて野望をもって動いているわけですね。
シーラの場合、公務員の婚約者がいて将来は安泰だったはずが、新しい恋人があらわれて駆け落ちすることで、人生が動きだす。そして、お金のために仕立屋の仕事を始める。また、彼女の友人のロザリンダ・フォックスも、年上の男性と結婚して落ち着いた生活をしていましたが、夫に捨てられるというショッキングな出来事によって、人生が変わりました。
彼女たちは変化するポテンシャルを秘めていたわけですが、そんなポテンシャルをもっているなんて、自分では知らないことが多いんですね。ただ、いろいろな状況に押されて、そういった自分があらわれ、だんだんと力を増していくわけです。
ヒロインの職業としてドレスの仕立屋を選んだのも、作品の中で、女性が独立して活躍できるようにと思ったためです。
本当に針と糸だけで家族を養ってきた仕立屋の女性たち、歴史の中で静かに活動していたこれらの女性たちに、この作品を通じて光を当てられたことを、たいへんうれしく思っています。
私は幸運なことに、制作プロダクションと非常にいい関係をもつことができました。作品の魂を大切にしていただいたことを非常に感謝しております。唯一気にしていたのは、読者を裏切るような作品にならないように、それだけでした。
このシーラの女優さんは100%ぴったりでした。アドリアーナ・ウガルテさんは、私が考えたとおり、本当にシーラという人物像を自分のものにしていました。
私は、エピローグで、まず歴史的な登場人物がどうなったのかを描きました。そして、フィクションの人物、シーラやマーカスのその後については、読者の想像にゆだねました。もしかすると英国の情報機関に所属しながら、いっしょに世界各地に行ったのかもしれないし、あるいは結ばれなかったのかもしれない──。いろいろな選択肢があります。ぜひ読者に選んでほしい。
これについては、喜んだ読者もいましたが、中には私のことをたいへん怒った読者もいました。ハッピーエンドとして書き上げないなんて、どうなっているんだ!という読者もいたんです。
私の中では小説というのはあくまでも対話ですので、読者の側からの話があってもいいのではないか、と思っているんです。テレビの脚本の最終話で、最初、シーラとマーカスがどこかの山奥の小さな教会で結婚する、という結末になっていたんですね。私はそれを読んだときには、赤ペンでチャンチャンと[バツを]書いたんです(笑)。2人が結婚するなんて絶対に許さない、と。あくまでも小説の場合は読者、ドラマの場合は視聴者にそれぞれの終わり方を考えていただきたいのです。ですから、みなさん、自由に考えてください。どうぞお任せしますね。