昔、母が地方から来た知り合いのおじょうさんをすごくかわいがっていた時期があった。ほんとうにかわいい子で、毎日のように私の実家で晩ご飯を食べていった。
彼女が体調を崩したとき、なんとか力になりたいとみんな思った。でも体調を崩したことで仕事もうまくいかなくなり、彼女は元気なく実家に帰っていってしまった。知り合いは「おたくに預かってもらえまいか」と言っていたのだが、母もあまりに病弱だったので、病気の子を責任もってあずかることはできないと断っていたのを覚えている。
それでも彼女を心配した母は、彼女の家族に「こういうところで無理をして倒れてしまうようだから、こういうふうにしたら?」というようなことを電話で訴えていた。
そして先方にこう言われていた。
「どうして他人の家のことをそこまで言うんですか? よけいなお世話です」
私もよくそう言われるので、よくわかる。
東京にいるあいだ、近所に住ませて、ごはんを食べさせて、友達をたくさん紹介して、病院も紹介して、つきそって、毎日のようにお見舞いに行き…好きで放っておけないから勝手にそうしているとは言ってもそんなふうに接して、でも、そんなふうに言われてしまうのが常なのだ。
そのあとあまり母は彼女の話をしなくなった。その言わなさかげんでとても傷ついたんだということはわかった。
私はいつも母が他人の家に関してぺらぺらと電話でアドバイスをしゃべっているのを聞いて「よけいなお世話なんじゃ」などと憎まれ口を聞いていたから冷静であったはずなのだが、母がその対応をされたときに自分でもよくわからない怒りがわいてきた。
「こういうタイプの目上の人に、かなり年下の人がそんなふうに言うなんて、いつのまにか世の中って荒れてきたなあ」と落ち着いて見ていたというのに、なぜか感情は悔しいと感じていた。
他人であるその家の娘さんが東京にいたとき、母がどれだけ面倒みたと思っているんだ、とつい一番言ってはならないことを言いそうになってしまった。